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ブラジル・日本人サンバダンサーの華麗な日常

ブラジルに住む日本人サンバダンサーの全く華麗ではない日々

ネズミと住んでいるところの人たちとの攻防  

リオの洪水からしばらく筆を絶ってしまっていたのは、前回体を汚水に浸したことによって伝染病にかかりすっかり体調を悪くしたため

 

という訳でも特になく、

なんとなくのらずに放置していただけなのだが、

 

サンパウロに戻り日系人の友人と歩いているときに道路の脇に結構でっかいドブネズミを見つけ、

私『うわー、ほら、ネズミ!あそこ!!うわっ!ぞわっ!!!』

友「あ、本当だ。でも私はわりとネズミって好きよ」

私『えー、でもコイツけっこうでっかいよ?それにビジュアルはともかく、こういうネズミは危ないじゃん、ネズミが介する病気とかたくさんあるんだよ!?』

友「へえ、そういうの嫌なんだ?リオであんな水の中歩いてるから気にしないのかと思った」

私『………』

友「あんな洪水の水ネズミのおしっことかばい菌でいっぱいだよ」

私『………………』

友「そんなのみんな知ってるから誰も水の中歩いてなかったでしょ?」

私『………………………』

 

ということがあり、冒頭で述べたように本当に体調を崩す可能性もあったのであった。

言われてみればもっともで、ブラジルでは普通の道路を歩いていてもゴキブリが横切るのはそう珍しいことではないし、

日本よりも数倍不衛生で汚染の危険性が高いことは少し考えれば思い至りそうなことであった。

これを読んでいるみなさんもきっと週1ペースでブラジルで洪水に遭ったりしてる方ばかりだと思うので、そんな時はくれぐれも注意していただきたい。

 

レストランから出るときに背中に注がれたと思った熱い視線は、勇者をたたえるものではなく、

あいつ、バカじゃね?病気になっても知らんよ?

という侮蔑の視線だったのだ。

勇者のつもりがとんだドン・キホーテだったわけである。

 

 げーきやーすじゃーんぐるー(じゃんぐるだ)

というようにドンキのテーマ曲を力なく口ずさみながらしばらくしょんぼり暮らしていたのだが、

せっかくなのでここで私がなぜネズミが嫌か、について触れていきたいと思う。

 

実は今住んでいるサンパウロの家にはネズミが出る。

サンパウロでの家というか部屋はひとり用だがバス・トイレ・キッチンは共同の日系人向けの施設に住んでいる。

日本のみなさんには説明しにくいのだが、公民館のような施設にたまたま部屋がついているので片手間で貸している、そんなイメージだろうか。

現在は管理している人も、掃除をする人も、住んでいる人たちも私の他はみんな男性なので、あんまりきれいではなく杜撰な男所帯といった体であるのだ。

その台所にときどきアレが出るわけだ。

水回りが汚いのは特に気持ちが悪いので始めは結構掃除をしていたのだが、

なんで他の人が汚したところを私がいつもきれいにしなきゃいけないんだ?私は掃除婦じゃねえ!!タンメンはねえ!!!

と何度も心の中でぶちギレた経験上、

自分がキレないですむ範囲内に収めるためあえてなるべく他人のしたことについては掃除をしないようにしていた。

 それでも食べ物のカスなどが放置してあるとアレや虫が沸くので、しぶしぶながら最低限の片づけは行っていた。

 

私は台所の目の前の部屋に住んでいるので、アレが部屋にうっかり入ってきてしまったらどうしようだとか考えると夜も眠れない。

夜中にトイレに行くときなどアレが驚いて素早く冷蔵庫の後ろに逃げたりするので、

こっちも不意を突かれて飛び上がって驚いたりしてしまい心臓に良くない。

絵にした場合アレの後方に汗のマークが飛び散っているような大仰な驚き方をされる。

こっちのほうがびっくりだというのに。

 

びっくりするだけならまだ良いが、やはり一番心配なのは伝染病の問題だ。

台所が不衛生なのはとても気持ちが悪いが、さらに病気までついてくるなんて本当に一刻も早くなんとかしなければならない。

 

だが、老獪なネズミたちは暗いところを好むため事務所の人がいる昼間は出てこない。そのため誰にもなんとかしてもらえない。

自分でなんとかしようと思っていろいろと調べ、スーパーでアレを殺す薬を見つけたときは手に取ったまましばらく固まり暗い瞳で数分間見つめるほどに思いつめたが、

天井裏やら冷蔵庫の下なんかで昇天された日には気づかないうちに虫が沸いたりと2次被害がはんぱないとの情報を思い出し、すんでのところで踏みとどまった。

 

直接事務所の人に、ネズミが出るのでネズミ捕りをかけてください、と声をかければいいのだが、ぶっちゃけ私は事務所の人との折り合いが良くなく、こういうことを言ってクレームと受け取られた過去があるので直接話をしたくない。

 

毎日台所の小さな物音にもおびえ、他の住人が料理の生ゴミを流しにそのままにしていると言っては怒り、床のアレのフンを不注意に誰かが踏んでつぶして床中にこびりついているのを見て発狂する。とうとうガスレンジ台の上にまでアレのフンを見つけた時は卒倒しそうになった。もうこんなところで料理なんて一切したくない。

だが事務所の人たちとは折り合いが悪いので、どうしても話をしたくない。

 

そして、私は気が付いてしまった。

アレのフンを不衛生で気持ち悪いからといって私が掃除をしていると、いつまでも事務所の人にも他の住人にもアレの存在を気が付いてもらえないことに。

その日から我慢比べのような日々が始まった。

 

そう、それは、自分との闘いだったのかもしれない―――。

 

つまり一切掃除はせずに放置をしておくのだ。

みるみるうちに台所にはアレのフンが散見されるようになった。

だがアイツらは主に端っこや陰になったところ、スキマなどにフンをするので、事務所の人の使う電子レンジへ向かう導線にはフンは無く、誰かが気が付いたような気配はまったくない。

何日も台所を使えず、夜はちょっと部屋の外に出るのにも怯えて暮らす私のイライラはすでにピークに達していた。

 

ええ、追い詰められて、思い詰めてしまったんだと思います。。。

いつもはそんなことをするような子じゃないんです。本当です。

でも、あの子は子供のころから少し真面目すぎて周りが見えなくなるところがあるから。。。

 

 夜中にでっかいアレと小っちゃいアレの少なくとも2名の出席をこの目にはっきりと確認した翌朝、とうとう私は覚悟を決めた。

 

カラーリング剤についていたビニールの手袋を二重にして嵌め、台所、廊下付近に人気が無いのを確認すると、腰をかがめアレのフンをつまみあげ、廊下から電子レンジへの導線である床の上におもむろに移動させ始めたのである。

たいそう天気の良い気持ちの良い朝だった。

台所の窓から明るい陽射しがさんさんと降り注いでいる。

なんでこんな朝っぱらからこそこそと犯罪者のようにネズミのうんこをちまちまとつままなければならないのか。

考えると泣きそうだが、気が付いてもらうにはもはやこれよりほかに手はない。

事務所の人は少なくとも弁当を温めにお昼に必ずここを通る。

その時におびただしいネズミのフンを見たら、きっと改心?してくれるはずである。

そのチャンスに懸けるしか無いのだ。

ネズミのフンが不自然に固まらないようにバランスの良い間隔を考えて「ここちょっと少ないな」などと追加で散りばめたりするアートな感覚も発揮しつつ、

ついに誰にも見とがめられず任務を遂行することができた。

一番情けないのはそれを誰かに見られたときで、いったいどういう言い訳をすれば良いのか、気が違ったと思われるのは必須で今想像してもゾッとする。

 

だが私はとうとうやり遂げた。完全犯罪だ。

 

 

当日どうなったか期待しながら仕事から帰ると、そこにはネズミ捕りが設置してあった。

 

やった!私は勝ったんだ。。。!!

 

そしてさらに翌日の朝、ドキドキしながら台所を通ると、ネズミ(小)が捕まっているではないか。

おお!早速か。やっぱり小さい子は経験が少なくて頭があんまり良くないからすぐ捕まるんだな、ま、上出来上出来。

とほくそ笑んでいたのだが、

事務所の人はそれで満足してしまい、ネズミ捕りの設置を取りやめてしまった。

「違う、、、もっと大物が、まだ、、いる、、、」

と、言いたいがその頃には折り合いが悪すぎてビール瓶で頭をかち割り合ったりするほど関係が悪化していたので(ウソ)やはり自分からは言い出すことはできない。

 

私が移動させたフンはことごとく掃除されてしまった。

また、いちから始めないといけない。

 

しかし大きいネズミはやはり頭が良いようで、不用意にフンを人が来そうなところに残したりしない。ネズミ(小)が捕まったせいで警戒しているのか、それからしばらく見かけなくなった。

 

かと思えば数か月後またフンが台所の隅に落ちていたりする。

さすがねずみ講と言うだけあって、何度か新たな小さいアレも見かけるようになった。

ので、白状するとここ数年でさらに2ターンほど同じようなことをやってのけた。

私の手は殺人者であったならばすでに血まみれである。

 

数か月出てこないのでもういないと油断していると夜中に台所の窓へ向かい床から壁をよじ登っていくネズミ(大)に鉢合わせたりしてギョッとする。

 

つい最近もまた台所の端にアイツらのフンらしきものを見かけはじめた。

 

やれやれ。

どうやらまたあれに手を染めなければいけない季節がやってきたようだ。

 

あと2か月もしたら私はここを出て行くことになったので、

きっとこれが最後の完全犯罪となることだろう。