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ブラジル・日本人サンバダンサーの華麗な日常

ブラジルに住む日本人サンバダンサーの全く華麗ではない日々

飛行機に乗り遅れる《前編》

ブラジルに住んでいながら、たまに日本に帰ることがある。

だいたい年に1回か2年に1回のペースで日本に戻り1か月前後過ごすことにしている。

GW真っ只中ということで旅行気分をしゃにむに欲しがる皆様に向け、今回は去年日本に帰る際に飛行機に乗り遅れた話を聞いていただきたいと思う。

 

ここ数年は年の離れた日本人の友人である、さる貴婦人の経営する旅行社で日本行きチケットを取ってもらっている。

今回は本当に偶然にたまたま同じ日の同じ飛行機でその貴婦人も日本に帰ることになり、いつもお世話になっているので

「わたし、飛行機で一緒に食べるおにぎり持ってくね!」

と請け負い、いつもは長く退屈な1日がかりの旅もこりゃ楽しくなりそうだわいとその日を心待ちに過ごしていた。

 

しかし、みなさん思い出していただきたい。

私は名うてのうっかり者である。

しかもブラジルに来る前から時間には少しばかりおおらかなところがある。

小学校の夏休みの宿題は31日に家族に手伝ってもらいやっつけで片づける。

そんな人間味あふれる親しみやすいタイプであり、旅行の準備などもぎりぎりになるまでのんびり過ごしてしまい直前になって慌てて準備をする、

「むしろ直前にならないと生きてるって感じしないつうか…燃えないんだよね。」

とクールにうそぶく、そんな限界ギリギリ☆ガールなのだ。

 

いつものごとく案の定当日まで荷造りには何一つ手をつけていなかった。

夜の10時くらいの便であるので、チェックインなど考えると7時8時くらいには着いていたい。

タクシーで1時間かかるとして家を出発するのは6時か7時、いやその時間帯は渋滞する恐れもあるので念のため5時台には出発しておきたいところだ。

と、時間の目算をつけ、昼過ぎからのたのたと準備と部屋の掃除を始める。

帰ってきたときに部屋が汚いのは嫌だからな…などと考えてしまい、気がつけば時間もないのに今やる必要のないものの洗濯やたんすの整理など初めてしまっていた。

日本に持って行く予定のないスニーカーの汚れを消しゴムでこすっている時にはっと我に返ると、もう4時を回っている。

掃除もやり残しているが路線を変更して荷造りに専念することにした。

大きいトランク2個と機内用トランク1個にボストンバック1個というここでも制限ギリギリガールぶりを発揮し、

カ~バンぱんぱんカバンぱんぱーん♪と口ずさみながらおみやげや日本で着る服など片っ端から詰めていくとみるみるいっぱいとなった。

もう余裕があれば出ていておきたい5時台を過ぎようとしていたが、まだ持って行くものの最後の吟味ができておらず、

慌てているのでもはやもう何が必要なのかわからなくなって日本でとりたてて着用する必要性は無いであろう蛍光の黄色いパンツを握りしめて立ち尽くしたりしている。

 

あ、おにぎり…!

 

敬愛する貴婦人との約束を守るべく、果敢に米をとぎはじめる。

ええと、今6時前で…ずいぶん余裕をみてたはずだし、きっとタクシーで1時間もかからないよな…。チェックインは1時間前くらいでもなんとかなると思うし、、、。

おにぎりも鍋炊けば20分てとこか…その間にこれを詰めれば…よし、イケる!!

もうパニックなので時間の計算がおかしくなっている。

結局7時を過ぎ、忘れ物をしたと3回ほど門まで行っては引き返し、タクシーを拾って荷物を運びこんだときには7時30分となっていた。

正確には10時20分の便であったので、いつもギリギリの時間に出ている経験から、家から3時間弱あればなんとか多分大丈夫なはず、と初恋くらいの甘ずっぱい予想を立てた。

 

ところが、今日に限って今まで経験したことの無いくらい道が混んでいる。

いつもは2,30分で着くはずの高速の入り口まで1時間経ってもまだ半分くらいのとこで渋滞したまま動かないのだ。

これは…まずい…かも…

件の貴婦人からも電話をいただき、そっちも自宅からの道が大変混んでいるとの情報で、やっと高速に乗れたところだがそれでも間に合うか心配だという。

 空港によほど近いところにいる貴婦人で間に合うかわからないのだから、それよりかなり遅れを取っている私は完全にアウトだ。

 

運転手が、これはもう間に合わないから引き返したほうがいい、と言ってくる。

動揺をごまかすように飛行機で食べるはずのおにぎりをむしゃむしゃと頬張り、自分でも惚れ惚れするような鮮やかな逆ギレで、

『そんなのまだわかんないし!ホラホラよそ見とかしないでとにかく空港に向かって!!』と、イライラと口元からごはんつぶを飛ばしながら言い返す様は感じ悪いこと甚だしい。

 

もう本格的にこれはダメだ、と覚悟を決めたころに道が動き始めた。

貴婦人からはなんとかチェックアウトを済まし間に合いそうだという報告を受ける。

『今日は特別に道が混んでいるんだもの、あなたが悪いんじゃないわ。私だってもし運が悪かったら乗れなかったはずなんだもの』

と、優しい言葉をかけてくれるが、私だけは知っている。

そう、私が悪い。

荷造りをしないとこうなる可能性もあることを知っていながら、いつまでも何もせず寝転んでアイスを食べていた私が悪いのだ。

 

空港に着いたのは飛行機が飛び立つ前ではあったが、絶対にその飛行機に乗ることは不可能な時間になっていた。

 

実はタクシーで引き返すことができなかったのにはひとつの決定的な理由がある。

実は戻ったところで帰りのタクシー代を払うお金を持っていなかったのである。

家に帰っても家には1センターボ(ブラジルの最小単位の小銭)も残してきていない。

日本へ帰る旅費やお土産代で持ち金をほとんど使い果たしてしまい、ブラジルの口座にあるはずのわずかなお金もたぶん数千円で、いくらあったか定かではないがおろしたところで足りるかどうかわからず、夜遅いので帰る道すがら銀行を探しながらではそもそもおろせない可能性も高かった。

前年日本に帰った時に日本のクレジット付きの口座のカードの暗証番号を忘れたのに手続きをしないでこっちに戻ってきてしまったので引き出しもキャッシングもできない。

手続きをしてこなかった自分の杜撰さを無理やりポジディブ方向に捻じ曲げ、何があってもブラジルで稼いだお金だけでこの1年はつつましく生きるのだと健気な誓いを立てたということにしていた。

 

あえて退路を断って自分を追い混んでも前に進もうとする。

忘れないで欲しい、ブラジルの地にそんな勇敢な日本人女性がいたことを――――。

 

さて、飛行機に乗り遅れ、帰りのタクシー代も無く夜の空港に佇む異国の女。

ミステリアスでドラマティックな展開にもう目が離せますまい。

果たして無事日本へたどり着けるのか?

後編を括目して待て!