ブラジル・日本人サンバダンサーの華麗な日常

ブラジルに住む日本人サンバダンサーの全く華麗ではない日々

愛と友情のマクンバ 序章

つい最近のとある日、ヤスミンが、

「あなたの膝が痛いのは、マクンバで呪われてしまっているせいよ」

と言い出した。

 

 

一体なぜそんなことになるのか。

 

 

 

ひさびさの登場であるリオの友人、ヤスミンちゃんのとの日々である。

いろんな経験をしてきた彼女であるが、

joe.hatenadiary.com

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彼女は結構な“マクンベイラ”という顔を持つ。

マクンベイラとは頻繁にマクンバをやる人のことだ。

マクンバというのはこちらの黒人密教からの宗教色の強い儀式のことである。

説明すればするほどブラジル文化に詳しくない人を迷路に誘い込んでしまっているような気もするが、何となくの雰囲気はお分かりいただけただろうか?

実は私もちゃんと説明できるほど理解できていない。

まだブラジルに来たばかりの時に呪いの儀式だと説明され、誰かがイラっとさせるようなことを言うと、

あ、もうっ!マクンバかけるぞ!

というしょーもないギャグは、私も含め、まだこちらに来て日の浅い日本人同士がマクンバという言葉を知ってはしゃいで必ず一度は使う代表的なブラジリアン・ジョークである。

ググると人を呪い殺すための呪術で、かけたほうも命がけでリスクも高いとおどろおどろしいことが書いてあるのだが、実際身近で接してみるとそういう一面だけでなくて就職祈願や恋人探し、最近ついてないので厄落とし、みたいな普通に日本でも神社にお参りするような感覚でマクンバをやる人も多いと聞いた。

 

いろんな形態があるようだが、私がリオに通い始めたばかりの時にもヤスミンの家にマクンバの聖人だという人が良く来ていて、憑依したその人がお告げをする機会にたまたま同席したことがある。

そこで言われたものを準備をしてほど良き日にマクンバの儀式を遂行するようだ。

一緒にいたら私にまでお告げをしてきて、今よりさらにポル語がわからなかったので内容はちんぷんかんぷんだったが、葉巻をくゆらせ白目をむいて唾をペッペとバケツに何度も吐き出し体を奇妙に揺らしながら、その聖人は男性にもかかわらず女言葉で話していたことなどから女性の神様が憑依してお告げをしていることはなんとなくわかった。

後で確認すると、ヤスミンにはドナ・マリアという人が、私にはセッチサイアという人が下りてきて、それぞれのマクンバへ必要な捧げ物などを告げたという。

私には赤いバラを20本と、あと何やらいろいろ用意してマクンバをすれば私の願いのふたつが叶う、ということだった。

ヤスミンはやったほうが良いと勧めてくれたが、そんなもんはまったく信じていなかったのでその時はきっぱりと断った。

叶うと言われた2つのうちの、“希望のリオのサンバチームに踊り手として出る”というのはマクンバに頼らずとも叶ったので、ほらみろ、と思っていたのだが、“素敵な恋人に出会い仲良く暮らす”というものは未だ実現されていないので、やっぱりあの時に素直にヤスミンの言うことを聞いておけばよかったのかもしれない。だがそんなことを今さら思ってみてもそれこそ後のサンバカーニバル(既出・2度目)というものだ。

 

その後もヤスミンのマクンバ用グッズの買い出しに付き合わされたり、また、彼女の家族総出のマクンバ・デーに居合わせたりしたこともある。

連れていかれるのを覚悟をしていたが、

“どうする?でもあなたにはちょっとショックが強すぎるかもしれないわ。ここにいたほうがいいかも…”

という意見に同意してヤスミンちゃんの家でひとりお留守番をしていたこともあった。

すぐ帰ってくると言って2,3時間しても帰ってこないので心配していると、みんな疲れた様子でやっと帰ってきて、マクンバショッピングで買っておいた大量の生きた鶏が忽然と消えていたりする。

まさか鶏を生贄に絞め殺したりしてないよな、と、注意深く帰ってきた皆の衣服の汚れをチェックする。皆わりと綺麗な格好で出かけており、戻ってからも特に衣服に特に異変は見られなかった。気のせい気のせい、とほっとして気を落ち着かせていたのに、同行していた聖人がくるりと私に背を向けたのに目を向けると、彼の背面にびっちりと返り血が飛んでいて度肝を抜かれる、なんてこともあった。

おまけにその帰りのお土産に焼きたてのチキンを持ってきて、食べるか?と勧められたが、

もしや、あれが、これに。

とか思うと食欲がわかず手を付けることはしなかった。

 

 またこれは最近のある日、彼女の家にいるとやはり霊験あらたかなマクンバ師の元へ連れていかれた。

マンゲイラに行く、と言うので、おお、マンゲイラ(という有名なサンバチーム)に連れて行ってくれるのか、と思っていたら、チームの前を素通りして地名でもあるマンゲイラという地区にあるそのマクンバ小屋に導かれたので、巧妙なトリックにしてやられた感があるが別に彼女は嘘はついていない。

マクンバ師といっても、こんなんいたらどうしようと怯えていたような、顔を白塗りにしておもむろに人を指差し不吉な呪いを叫んで泡を吹いて倒れる、というエキセントリックな感じではなく、初老の、人をホッとさせるような、イメージとしては教会の神父さんみたいな穏やかな方だった。

基本的に彼女が相談のような形でそのマクンバ師のおじいさんとずっと話し込んでいるだけで、隣の部屋のTVの音がうるさくて話している内容はほぼ聞き取れないし退屈だったので、勝手にそのマクンバ小屋を散策してみた。

 すると、

 

にわにはにわにわとりがいた。

 

2羽どころではなく6,7羽の鶏がゲージに囲われて生きたまま収められている。

庭でその成れの果てと容易に想像がつく、絞めたてと思われる数羽の鶏の羽をむしっているおばさんに、ここで見ていてもいいか、と聞く。

寡黙だが気さくで、全然構わないよ、というので、首を切り落とし羽を捥ぐその工程を心の中でぎゃー、と叫びながら息を飲み見守る。

台所のほうでは大量の汗をかきつつ狭いスペースで若い娘さんが野菜などを煮ていた。

ここで働いていると思われるその二人はマクンバの聖地バイーアの伝統的な女性のする恰好で、ターバンのようなものを頭に巻いて長いふわっとしたスカートを履いていた。

マクンバ師の家族なのかもしれない。日本風に言えば巫女兼家事手伝い、といったところだろうか。

私が退屈に好奇心も手伝ってあれこれ質問をすると、仕事をこなしながら話に付き合ってくれる。

「ふぅー、あっつい。今日はまだ他のマクンバもあるから仕事が多くて大変よ。へー、日本にはマクンバって無いの?うふ、だから珍しそうにしていたのね。そう、これは儀式でつかうものよ。でも日本でもマクンバに似たようなものはあるでしょ?そりゃそうよ。“嫉妬”っていう心は世界中の誰もが持っているものだものね」

と、多分ブラジル国内から出たことのないだろう彼女でもさすが巫女のはしくれ、なかなか鋭い事を言うので本当にそうだな、と感心していた。

二階では何かの儀式の最中なのか、何かの断末魔のような叫び声が聞こえてくる。

庭の物置のような建物の中を覗くと、祭壇があり黒い羽をした鳥(死骸)やヤギの首などが飾られている。

ヒッ、と声を出さずに小さい悲鳴を飲み込み、また庭先をうろうろしてみる。

それでもまだ退屈を持て余していると、さきほど叫び声のした2階にヤスミンちゃんは司祭と一緒にあがっていき、何をしていたのか30分ほどで下に降りてきて、少しまた話をした後でやっと帰ることになった。

 

 

ここで、

ヤスミンが、「あなたの膝が痛いのは、マクンバで呪われてしまっているせいよ」

と言い出したところへ話へ戻そう。

だからまずは薬草などを使った膝の治癒メインに嫉妬を落とすマクンバをしたらいい、という。

「あなたに嫉妬した黒い女の人があなたを呪っているの。あなたもマクンバをしましょう。」

近くにいた友人も、うんうん、そうだとしたり顔で頷いている。

 

 

一体何がどうなってそんなことになってしまっているのか。

だいたい私を呪う黒い女とは誰か。 

 私はその彼女にどんな非礼を働いてしまったというのだろうか。

 

茫然としつつも、いや、でもこれちょっと面白いかもしれない、と好奇心がうずき出す。

 

今度この話はゆっくり書こうかと思うが、私は去年カーニバルの10日ほど前に体調を崩して倒れ一時緊急入院した。

カーニバルにはなんとか参加が出来てその後快方に向かってはいたがなお日々目眩などの症状に悩まされていた。

私が道でバッタリと生き倒れた時のそのさまが狂人のように尋常では無かったのを見ていた大家のサンドラさんは、これは絶対に悪魔に取りつかれてしまっているに違いないので祓ってもらったほうがいい、と私を、彼女の行きつけの教会に連れて行ってくれた。

半分顔を立てるために付き合った部分もあったのだが、お祓い的なことをしてもらうと、その日からピタリとその目眩がやんだ。

私はもともとスピリチュアルなことにはどちらかと言えば懐疑的な方である。

回復期と重なっただけの偶然かも知らないが、それにしてもその時はかなり不思議な体験をした。

 

私の膝が痛むことはわりと前からヤスミンちゃんに告げていた。

手術が必要かもしれない、などと不安に任せて言ったりしたこともあったので、膝の不調と体調不良を理由にサンバの練習を休みがちでリオに例年のようには訪ねてこない私を心配して、彼女なりに何か原因を突き止めようとしてくれた結果のようだ。

 次回ヤスミンの開催予定のマクンバは、呪ったりするネガティブなものでは無く、願いを叶えたり汚い思念など寄せ付けないように身体を浄化するためのマクンバだと言う。

どうしてこんなことになっているのかはさっぱり理解ができないが、ヤスミンが私のことを親身になって考えてくれるのは伝わってきて嬉しく、有難かった。

よし、いっちょのってみるか。

 

そういった訳で私はマクンバをすることになった。

 

もし私の膝が治り、その上今度こそ素敵な恋人のひとつでもできたら、それはヤスミンちゃんのマクンバのおかげかもしれない。

 

もしそれで私の欲望が叶ったら、

 

私はマクンバのおかげで幸運を掴みました!!

 

という、目元を黒い線で隠して恋人と腕を組んで歩くショットと共に札束の風呂に入った写真を乗せた胡散臭い広告を作り、このブログでも大々的に宣伝する予定だ。

 

 次回に続く。