ブラジル・日本人サンバダンサーの華麗な日常

ブラジルに住む日本人サンバダンサーの全く華麗ではない日々

ゲイ男子との暮らしinブラジル4~セバスチャンの決断~

セバスチャンと今の家を出て一緒に暮らすという話にはなったが、現実はそう簡単にもいかなかった。

まず、セバスチャンの住みたいところと私の住みたいところがちょっとずれている。彼はもっとオサレな繁華街に住みたい。私は今の場所からそんなに離れたところには動きたくない。

私は一年前に部屋探しをいっぱいしたのでわかるが、ここは少なくとも探した中では私の条件に一番合う場所だったので、少しネットなど探ってみるも、もっと良い条件のところに出会うことは難しく思えた。

それに、その時はセバは彼氏のシャンギットとアツアツだったので、二人で物件を見に行ったりもしていたようだし、私は邪魔者以外の何物でも無いのではないかと思いだす。

なので私は二人に切られても恨まないように心の準備だけはしておいていた。

だが、セバが住みたがっているオサレな繁華街は家賃が死ぬほど高く、二人が住みたいと思うような素敵なところは資金的に手が届かないようだ。

彼らもお金がそんなに潤沢にあるわけではないし、3人でお金を出し合えば広い部屋に安く住める。

そういう問題もあったからだと思うがぜひ君も一緒に引っ越そう、と二人とも言ってくれた。

でもよくよく考えると私は仕事をするのにいくつか借りているスタジオからほど近い今の家ありきで既にスケジュールを組んでしまっていたので、レッスンの合間に家にちょっとでも帰って休んだりも出来ない場所へ引っ越すのは私の体力的にかなり厳しいと判断し、いずれ今後の生活に支障が出るのではないかと憂いた。

できればセバたちと離れたくないが、でも無理なものは無理なので、やはり私はこの周辺でなければ引っ越すのは難しいと思う旨を告げた。

最悪、ひとりでどこかに引っ越すことになっても仕方がないとその時少し、覚悟もした。

どうしたものやら、と、そのままその話は宙ぶらりんになり、皆あまりその話題には触れないままなんとなし時が過ぎて行った。

ヒステリックグラマーなレオ家族の様子もうかがってはいたのだが、訪ねて来てから1か月以上経過するも特に追い出されるようなリアクションは無い。

次第に、引っ越すのは面倒でお金もかかるし他に皆にとって良いという物件も無さそうだし、もう引っ越さなくてもい~かな~、というような雰囲気になってきた。

また、その間にシャンギットが仕事を失くし、少しして新たな職を得たのだが、彼の家から2時間半ほどと新しい職場から猛烈に遠く、この家からは割と近い、ということで話がまた変わり、この家から引っ越さずにシャンギットがここへ引っ越してくるのが一番良いのではないか、という話になった。

今までもほとんど同居しているようなものだったのだが、男二人で一つの部屋というのはいくら恋人同士とはいえかなり手狭だし、ということで、この家の乗っ取りを計画した。

このアパートごとレオから借りきってしまい完全に三人だけで暮らす、というものだ。

ほとんど帰ってこないのだからレオの部屋をシャンギットが使えば良い。

暴君大家・レオが来なければ私たちもストレスをためないで過ごすことができる。

素敵な案のように思えたが結局はレオとの交渉がうまくいかず、その話が実現することはなかった。

 

そんな矢先、セバスチャンとシャンギットが別れることになり、話は急展開を迎える。

 

白状すると、男同士とはいえどもカップルと暮らすとなると多少の気は遣う。

これが男女のカップルだったことを思うと、きっと頻繁にイチャイチャされたならたちまち私は不快感を募らせ、クソがあ!とまずテーブルをひっくり返し大暴れをした上で姑に対する鬼嫁のごとく熱湯をかけて早々に追い出していたに違いない、と確信する。

男同士のイチャイチャは私の負の感情の琴線に触れないことが自分でも不思議だったが、二人は私の前でチューチューするくらいはざらで、私も既に慣れっこであった。

それでも、もうちょっとリビングにいて私も話に混ぜてもらいたいな、という気分の時でも、お邪魔と判断すれば空気を読んで、私は自分の部屋に行くから、と、さりげなく二人きりにしておいてあげるようなこともたびたびあった。

が、今は私がもっとセバスチャンと遊びたいと思ったときにそういった気を遣う必要はもうない。

セバも彼がいない分わりと暇なので、がっつり構ってくれることもある。

シャンギットには悪いが、これはこれで楽しいかな、などと思うようになってきた。

 

ここで断っておくが、私はセバスチャンが大大大好きだが、恋愛感情は全くない。

人に話をするとよく、セバが彼氏だったらいいのにね、とか、ゲイに惚れないでね、などと言われるが、それは違う。

セバはとっても優しくて愛らしくて超素敵な生き物なので、今となってはその外見すらかわいらしくて仕方が無く見えてきているが、異性としてははっきりきっぱりとまるでタイプではない。

あーかわいらしいー、と私がセバを見て悶絶するのは、内面から滲み出るその佇まいであり、いわば動物や赤ちゃんをかわいいと思うのと同じような感覚においてで、だ。

たまに手をつないだり挨拶で抱き合ったりもするが、一瞬たりとも彼といて性的な気持ちになったことは無い。

それに、セバが女性を好きであったなら、こんなにも仲良くなっていないはずだ。

私たちはお互いが異性であっても恋愛感情が絡まないからこそ利害関係のない純粋な友達になれ、だからこそとても大切に思えた。

彼に何のメリットもないのにいつも優しくしてくれたからこそ、彼のことが心から信用でき、好きになれたのだ。

私の彼氏ができない理由がなんとなく紐解かれてくるような気もするが、それはさておいて。

これは家族のような愛だと思う。

優しい弟を溺愛する姉が、弟を自分の側にいつまでも置いておきたいと思うような。

 

 

だが、そんな蜜月は長くは続かなかった。

セバは以前から誘われていたというメキシコ人の友人ゲイカップルに、

「彼氏と別れたのなら心機一転、僕たちの家の空いている部屋に住まないか」

と余計なことを言われたのだ。

彼は悩んだようだが、もし君が住まないならすぐに他の人を探す、と言われ、この今の家よりも彼の仕事場にも駅にも近く金額の条件も良いというその部屋にあと1か月足らずで移り住むことを、決めた。

「君はもう僕のイルマ(女兄弟)だから、残る君のことが心配だけど、、、。」

 ひどく衝撃を受けたが、彼にとってより条件の良い場所が見つかったのならそちらに行くのは当然だ。

何より、一緒に引っ越そうという話になった時に場所を譲歩出来なかったのは他ならぬ私であった。

兄弟のように愛しているといっても、本当の家族ではない、ただの同居人に出て行く彼を引き止める権利はない。

それに、シャンギットと別れたのを契機に、セバスチャンが新しい生活を始めたがっていたのは私もちらちらと感じてはいた。

私にこの家を出る、と告げてからは特に、遅くまで出かけていることが多くなっていった。

 

夜中にセバが大声で歌を歌いながら部屋に帰ってきて私の寝入りばなに起こされても、ああ、セバはなんていつもゴキゲンで可愛くて愛おしいんだ、とうとうとしながら思う。

そしてすぐに、この歌声を聴いてこんな幸福な気持ちになれるのもあとわずかなのだ、と気がついて胸が切なくなる。

一事が万事そんな感じで、セバスチャンが出て行くと私に告げたその日から、近いうちに必ず訪れるセバスチャンロスに怯えながら毎日を送ることになった。

セバスチャンとの楽しいごはんも何もかも、昨日までの喜びすべてが悲しみに変ってしまった。

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セバスチャンは私ほど感傷的にはなっておらず、むしろ新しい生活を心待ちにしているようにも見え、 私が想うように彼は私が好きなわけじゃないのだな、としょんぼりする。

でも、そうであっても私が彼を愛しているなら、彼の幸せを祈って気持よく送り出してあげるのが本当の愛なのではないか、と思い直す。

あまり負担にならないようにとあえてクールに接したりする時もある。

フェルゼンとマリーアントワネットの別れくらい苦しい。

あまりにつらいので、セバを知ってるこっちの私の友人に悲しくてたまらないと話をするも、そんなのしょーがないじゃーん、サンパウロにはいるんだしいつでも会えるよ~!どんま~い、と軽くあしらわれ、セバスチャンの引っ越し宣言により心が脆弱になっていた私は、私のこの繊細な心の機微をあなたはちっともわかってない!と怒り嘆いてケンカになりそんな自分にまた落ち込む。

とんだ二次災害だ。

 

と、くどくどと、とても長くなったが結局皆さんに何を伝えたかったか、というと。

そういった経緯と理由があって、このシリーズの一番初めに書いたように、私は最近毎日泣き暮らしている、のだ、ということ。

とにかく、悲しすぎる。

と、いうことだ。

 

もう何も言うな。

 私もあれから少しは落ち着いて来てはいるし、もう誰とも無益なケンカなどしたくない。

私にだってどうにもできないことであるのはわかっているので、ただ、私の感情の吐露をさせてくれ、聞いてさえくれれば、それで、良いのだ。