ブラジル・日本人サンバダンサーの華麗な日常

ブラジルに住む日本人サンバダンサーの全く華麗ではない日々

淫靡な、夢を見た。

淫靡な夢を見た。

 

それはしこたま酔っぱらった私が車の後部座席で眠っていると、前の座席でブラジル人女性が男性の上に乗って歓楽の声を上げて上下に激しく揺れている、という破廉恥なものだった。

 

             

       ⋇⋇⋇⋇⋇⋇⋇⋇⋇⋇⋇⋇⋇⋇⋇⋇⋇⋇⋇

 

 

 

数年前のちょうど今くらいの季節、私はサンパウロのあるサンバチームの昼からやっているフェイジョアーダ会を訪れた。

こちらではたまに開催される、チーム主催のサンバの生演奏などを聴きながらブラジルの国民食を食してみんなで飲んで踊ったり歌ったりわいわいと楽しむフェスタである。

その土曜日にそういう会があるとの情報を耳にしたので、カーニバルにはほど遠いオフのシーズンでサンバに少し飢えていたし、特に友達を誘うわけでも無くふらっと訪ねてみることにした。

ひとりではちょっと間が持たなくてつまらないこともあるのだが、直前に約束を破られることにドキドキしながらブラジル人を誘うのもめんどくさいこともあって、気力があり興が乗った時はひとりでそういった場に出かけることもある。

なあに、そこで誰かと友達になればいいさ。

着いたはじめはやはり気おくれしてしまい、端っこでひとりビールを何杯もおかわりして勢いをつける。

そのうち程よく酔っぱらってきたので、近くにいるおばさんに話しかけられたりバーの人と話したりしているうちにまんまとブラジル人のグループに紹介され、こっちで一緒に飲もうと声をかけてもらった。しめしめだ。

 

そのグループには他のチームのサンバの踊り手をしているという、身体にフィットした服を着た素晴らしいスタイルを持つ美人さんな褐色のお姉ちゃん2名ほどと私の好物である明るくファニーなゲイが数人という私にとってちょうどいい感じのグループで、酔って調子に乗ってギャグをぶちかましファンキ芸など披露しているうちにすっかり仲良く打ち解けることができた。

『ねえ、夜には私の彼氏も合流するからあなたも一緒にみんなでクラブに遊びに行こうよ!』

その、詳しく聞くと私も知っているサンパウロの有名チームで踊り手のリーダーをやっているというひとりの褐色のお姉ちゃんが私をぐいぐいと誘ってくれた。

ちょっと疲れていたし遠い場所であったので迷ったが、彼女の家と決して近くは無い私の家まで送り迎えをしてくれるという。

クラブが盛り上がるのは夜中なので、一旦それぞれ家に帰って繰り出そうということだった。

派手な外見のブラジル人のサンバの踊り子の女の子が日本人の私とそこまで仲良くしたがってくれるのはわりと珍しかったので、私も嬉しく思い、かなり酔っぱらっていたのだがせっかくの縁だと思い誘いに乗ることにした。

ブラジル人にその場では執拗に誘われたもののいざとなるとやっぱり連絡すら来ない、という苦い経験が私には腐るほどあるので、あまり期待しないようにしながらも家で待機していたのだが、なんと時間どおりに彼女は迎えに来てくれた。

こんなことでと日本の皆さんは思われるかもしれないが、私は本当に感激した。

こっちで出会ったばかりで送り迎えまでしてくれて時間通りに来てくれるサンバの女子なんてそうそういない。

まだ酒も抜けきらず眠くて仕方なかったが、この出会いを大切にしようと嬉々として車に乗り込んだ。本当に感動でちょっと涙が出てくるくらいだった。

 

彼氏さんが運転する車に乗り挨拶を交わし30分以上は車に揺られただろうか。

その彼氏がけっこうな“顔”であるから無料で入れるという触れ込みのクラブに着いたものの、女性とその“顔”である彼氏さん以外の男性、再合流したゲイの皆さんはすぐには無料で入れないのでもう少しの時間待たないといけない、と言う。

景気の良い事を言われ誘われたもののブラジルではそんなくらい良くあることなので、待つ間はじめはゲイの皆さんともども愉快にはしゃいでいた私であったが、昼過ぎから飲んだくれていたため待ちくたびれておねむになってしまった。

まだもう少し待たなければいけないということでとうとう耐え切れなくなり、皆で入れるまで少し車で寝かせてもらってもいいか、と頼んで車で即寝でしばし爆睡させてもらった。

 

その際に冒頭での変な夢を見てしまったらしい。

 

あらいやだ。お恥ずかしい。欲求不満かしら。

 

気が付いた時には、もう入れるよー、と車に呼びに来られ、外寝のそんな短い間に卑猥な夢を見ていたことがちょっと恥ずかしく、悟られないように頬を赤らめながら皆でクラブに入場する。

 

私はひどく酔っぱらうと一時堪えられないほど眠くなる瞬間があるのだが、少し休んでそれを超えるとだいたいはまた元気に復活できるタイプだ。

 

誘ってくれた女子は、私に大丈夫?と気遣いを良くしてくれ、飲み物を買う時にせめてものお礼と思って私が払おうとするのだが、断固として私に支払わせようとしない。

ブラジルではさんざ小銭をしらっとせびられることも多いので、彼女の私におもてなしをしたいという精神がとても嬉しくてまた泣けてくる。

よっしゃ、それなら私ももう少しがんばるぞと気合も入り、その後は皆でまた飲んで踊って楽しい時間を過ごすことができた。

 

さあもう帰ろうということになり、私は車の後部座席に乗り込んだ。

送ってくれる関係上の配車であるのかその彼氏の車で彼女と3人になった。

当然彼女は助手席に乗るだろうと思っていたら、私の隣の後部座席に乗り込んできた。

私に気を遣う必要は無いから、彼の隣に座りなよ、と恐縮して言うと、いいのいいの、大丈夫よ!とウインクしてくる。

ああ、私が帰り道で後部座席にひとりではつまらないだろうと隣に座ってくれたのだな、なんていい娘さんなんだろう。

ブラジル女子にこんなに大事にされることはあまり無かったので、こんな子が(サンバ界)、ブラジル人もいるのだなあ、とひたすら感動していた。

 

彼女は相当酔っぱらっており、後部座席に座ってすぐに私にしなだれかかってくる。

ん?

まあ、彼女も昼から飲んでいるのだし、そりゃあ酔っぱらってるに違いない。

しなだれかかり、私の腕やら太ももを撫でまわす彼女。

ん?ん?

あなたの肌って、ずいぶんすべすべしてるのね。。。

ん?ん?ん?

胸も結構あるし。。。

ん?ん?ん?ん???

胸をタッチされつつも彼女は本当に酔っぱらっててふざけているんだなあ~と、あなたもボインだよね~!なんて言ってボリュームに満ちたその胸をキャッキャと触り返してみたものの、はじめは気のせいかと思ったがその向こうの触り方ががなんというか、どうにも変にセクシャルな感じがするのが否めない。

ブラジルの娘さんたちは何気なしに色っぽい方も多いし、女子でありながら深夜AMラジオヘビーリスナーの童貞クソメンのようにドギマギしてしまう自分の自意識メンタリティーが過剰であると判断して、居たたまれなくなりひとまず落ち着いて場を持たせようとバッグから飴ちゃんを出して、これいる?と勧めてみる。

ああ、ありがとう、と彼女は私の差し出した飴ちゃんの皮を剥き、口の中でひとなめ転がすと、口紅で紅く縁取られたぶ厚い唇から出したその舌にのせてこともあろうに彼女からのダイレクトな口移しで私にそれを舐めるように迫ってくる。

ん?ん?ん?ん?ん~~~~~~~???????!

非常に混乱し、

ア、アハ、、アハハ、、、もう、酔っぱらってるね~!?いくらふざけてるっていっても、彼氏が焼きもち焼いちゃうかもよ~~?(笑)

と運転席している彼に助けを求めて振ってみる。

彼はたまににやにやした様子でちらちらこっちの様子を見ていたのだが、ふいに真顔になって、

「僕はそれをぜひ見たい。つーか二人でやったらいいじゃん。そしてその後三人でしようよ。」

と、妙に真っすぐな瞳できっぱりと言った。。

 

 

ぎゃー!おかーさーーーーーん!!

 

 

とっさに目に浮かんだのは地元埼玉県在住の母の顔。

 

セクシャルに感じた彼女の態度は決して気のせいでは無かったのだ。

 

彼女はやる気になれば女もイケる口だということを発表し、彼もそれに参加するのはやぶさかではなく、むしろ参加に非常に前向きである旨を私に告げた。

 

や、やられる。。。

 

そしてその瞬間にあの冒頭の夢であったはずの光景がフラッシュバックした。まさか現実では無いと、酷く酔っぱらっていたせいで出し抜けに淫靡な夢を見てしまった、と思い込んでいた夢が夢では無かったことに今さらながら気が付いた。

私が後部座席で寝ていた際に見た夢だと思っていたことは、まごうことなき現実であったのだ。

万が一目が覚めた私に見られようが、“覗き上等、夜露死苦”という勢いで彼らはいたしていたのだっだ。

 

ヤバい、、、絶対に、、、これは、、、やられる。。。

 

瞬時に車外の風景を見回し、割と大通り沿いを走っていることを確認した。信号待ちの間や、夜中でもまだ開いているバーなどの側で最悪はいつでも飛び降りれるように車のドアのロックをこっそり開けてドアに手をかけておく。

 

冷や汗をかきながらも、畳み掛けるように説得にかかる彼女らの口撃をかわし、冗談と受け取った風を装い、下手に刺激しないように笑って私はそこまで性的にフリーダムなタイプではないことをアピールしながら、なんとか無事家まで送り届けてもらえることができた。

 必死のパッチで、『

「私の性の対象は男性なのだ!」と訴えても、「ここに男性もいるじゃない。」と彼氏を指さしてOKサインを作る。

彼氏もにっこりと「そう、僕は男だから何も問題はないさ!」と、どーんと胸を叩いて見せる。

 

…そういうことじゃない!

 

男性と二人ならばもっと警戒していたかもしれないが、女子もいて、まさかこんなことになるなんて想像だにしていなかった。

 

最後までそのカップルは残念そうに、その気になったらこちらはいつでも受け入れるからね~!と言ってきたので、あ、あはは~、、ありがとう、、、と笑顔を尽くして言って別れた。

 

いろいろ過剰すぎて一体何からツッコんだらいいかわからなかったが、

ざっと挙げるだけでも、

①外国人の

③同性の女の子と

②知り合ったその日に

④その彼氏と三人で

とは、①~④のどれか一つだけをとっても、一生くぐることも無いままで死ぬ方も多いだろう上級者向けの高き門ではあるまいか。

一撃で私の性のレベルがうなぎのぼりに爆上げされてしまいそうすぎる。

そんなアダルトの階段を一気に駆けあがってしまった日には、急に翌日から私のみんなの前でふとした時に見せるその横顔も、やけに大人びたものとなってしまうだろう。

 

本当にびっくらこいてしまい、その後は寂しいよ~遊ぼう~、と彼女から数回連絡が来たものの、一回ショーをやる仕事で呼んだきり、遊びに行くことはしていない。

そのショーの時も他の出演者にもとっても気遣いをしてくれて非常に良いパーソナリティーを持っていた子だと感じたので、あの出来事は特に悪気があったわけでも無く、それぞれの性に対するキャパと方向性の違いであったのだろう、と今は思われる。

だがOKサインと誤解されてしまうのもなんなっだったので、自分から個人的に声をかけることはしづらかった。

彼女はしばらく所属チームの踊り子のリーダーをやっていたようだが、数年が経った今そのチームに所属しているという子に聞いてみたところ、もうその役からは降りてしまったようで、その後の彼女の消息はつかめていない。

彼氏、と言っていた運転してくれた彼は実は既婚者だった、みたいな話で、そのじぶん彼女もいろいろうまくいかず今は自暴自棄気味なのだ、などと私に自分語りをしていた。

そんなのもったいないくらい充分美人で魅力的だし優しい子なのに、その時は何か寂しそうで、良くは知らないが悩んでいる様子であった。

いろんな性癖(犯罪は除く)が多様であっても合意であったり誰かに迷惑さえかけなければ良いとは思うのだが、彼女はその時ちょっと男に疲れたとかとも言ってたし、どうも生粋のバイとかレズという感じもしなかった。

 

そんなの私には本当にはわかんないけどさ。

 

彼女は酔っぱらって寂しかったり彼の気を引きたかったのかもなあ、とか、そんなことを、今年の冬のサンパウロで、ちょっと思い返したりもしてみている。

別に私を道路に放置したり、無理やり犯されたりしたわけでも無いから、びっくりはしたけど、彼女が今も元気であれば、まあ、いいんだけどね。